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熊本地方裁判所 昭和51年(モ)567号 判決

主文

一  債権者田崎清則、債務者久保田久義、同鶴本信宏、第三債務者国間の当庁昭和五〇年(ヨ)第一六二号債権仮差押事件について、当裁判所が同年一一月二六日にした仮差押決定中債務者久保田久義に関する部分につき、これを取消す。

二  債権者の債務者久保田久義に対する本件仮差押申請を却下する。

三  訴訟費用は債権者の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

理由

一  債権者は、鶴本信宏に対する貸金債権の強制執行を保全するため、同人の詐欺被告事件の弁護人である債務者名義で納付された保釈保証金の国に対する還付請求権の仮差押を求めるというのである。

そして、債権者は、右保証金に対する実質上の権利者は右鶴本であると主張し、それが債務者名義で納付されているというのであるが、法律上は国に対する請求権者が債務者であることを前提とするものであり、鶴本は債務者が右還付を受けたときに債務者に対してその返還請求権を有するものであるというのである。

してみると、本件仮差押申請では、執行が保全される債権の債務者と、仮差押を受ける債権の債権者とが異なることとなる。

二  しかしながら、債権仮差押は、金銭債権の債務者の財産が隠匿、濫費等のため減少して、将来強制執行を行うことが著しく困難となるおそれのある場合に、その債務者の有する債権に対してなす保全処分である。

従って、債権者の鶴本信宏に対する債権の執行を保全するためには、同人の債権、例えば同人の債務者に対する、保釈保証金が還付された場合の返還請求権の仮差押を申請すべきであり、債務者の国に対する還付請求権の仮差押をする場合には、債務者に対する債権、例えば鶴本に代位した上での同人の債務者に対する将来還付される保釈保証金返還請求権の執行を保全するために申請がなされなければならない。そして、後者の場合には、保全の必要性として、債務者の財産の減少により右返還請求権の執行が不能又は著しく困難になるおそれがあることを主張し、疎明する必要がある訳である。

三  以上説示したところから明らかなとおり、債権者の鶴本信宏に対する債権の執行を保全するために債務者の国に対する債権を仮差押することは許されないといわねばならないから、本件仮差押申請は、申請の理由自体失当であって却下を免れない。

よって、本件仮差押決定中債務者に関する部分を取消し、債権者の債務者に対する本件仮差押申請を却下することとし、民訴法八九条、九五条、一九六条に従って、主文のとおり判決する。

(裁判官 堀口武彦)

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